妻と幼い子供を残して一家の大黒柱が亡くなる。それが事故であれ、病気であれ、胸が痛むシチュエーションなのは間違いない。
相続が発生すると、悲しむ間もなくその後の手続に忙殺される。遺産分割協議もその一つ。
未成年と協議
遺産分割協議は、相続人全員が参加しなければならない。
相続人が子供の場合、子供が未成年であろうと、その子を遺産分割協議に参加させないといけない。
未成年者と法律行為
「私権の享有は、出生に始まる。」(民法3条1項)つまり、生まれると権利・義務の主体となれるとの事。例えハイハイすら出来ない赤ん坊であっても、親の財産を相続する権利はある。
ただし、未成年者が法律行為を行うには、法定代理人の同意を得ないといけない(民法5条1項)。普通は親権者が未成年者の法定代理人として法律行為を行う。
利益相反行為
父が亡くなって、それなりの遺産があるとする。これを母と子供一人で遺産分割をする場合を考える。この子供が成年であれば、二人で話し合って決めて貰えば良い。
ところが、子供が未成年だとそう簡単にはいかない。
原則に従えば、母は子の代理人としての地位と配偶者としての地位がある。母と子で協議する、つまり母は、子の代理人として自分自身と協議する事になってしまう。そして、例えば母が、「未成年にお金残してもしょうがないし、とりあえず私が全て相続してしまおう」と決めることが出来てしまうと、子の利益に反することになる。
現実問題、母は、今後一人で子供を育てていかないといけない。だから、亡くなった旦那の相続財産は母が全て相続するのが普通だと思うし、それで良いのではないかと思う。ところが、民法ではこれを認めていない。
特別代理人
相続に限らずだが、親権を行う父なり母なりと、その子との利益が相反する行為を行う場合は、その子のために特別代理人の選任を家庭裁判所に申立てなければならない。(民法826条1項)
特別代理人を選任してもらって、その代理人と母が遺産分割協議を行うことになる。
ちなみに、子供が数名の場合は、子供一人一人に特別代理人を選任する必要がある。
大人になるまで待つのも有り
莫大な相続財産があるわけでもなく、また相続放棄などの手続をとることもないような場合、わざわざ費用をかけて特別代理人を選任するのももったいないと思うかもしれない。
ちなみに、特別代理人の選任をしないでなされた遺産分割協議は、未成年の子が成年に達した後に追認(事後承諾)しないと、無効になる。逆に言えば、追認すれば有効に成立しうる。
原則は、しっかりと法定の手続をとる、つまり特別代理人をたてて遺産分割協議を行うべき。原則は原則だが・・・・
とある相続登記
以前会社の同僚が、私に相続登記について質問してきた。旦那が亡くなって、その同僚と子供が相続人らしい。
基本的な相続登記の様式は法務局のホームページで用意されているし、法務局で相談にものってくれる。あとは、戸籍の事とかを教えてあげた。
で、その方は書類を用意して、法務局に相続登記を申請したらしいのだが、なんと、子供が未成年だったために、登記が受付られなかったらしい。(私もついうっかり見逃していた・・・)
その時に、法務局の登記官から言われたことらしいが、まずは特別代理人を選任しないと登記が受け付けられない事、もしくは子供が成人してから登記申請しても良いのでは?と言われたらしい。
まとめ
未成年者も相続人となり得る。しかし、その手続きは特別代理人を選任したりと、手間がかかる。
後々のトラブルを予防するうえでも、法定の手続をしといた方が間違いはない。子供が成人するまで待つのも有効かもしれないが、今後相続登記が義務化されると、この辺の手続も変わるかもしれない。
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