林業会社の不動産担当として、今まで相当数の山林の取引を行ってきた。面積で言ったら、1,000ヘクタール(10,000,000㎡)は超しているだろう。
これだけ大量の山林取引を扱っていると、なかには常識では考えられないような事例も混ざってくる。
場所がわからない土地
先日、山林を売りたいと相談に来ていたお客さんと打ち合わせしていた。お客さんと言っても、地元の方で付き合いも長く、かなりフランクな打ち合わせ。
無事、金額も提示して、お互い納得して売買は決まったのだが、なんとこの山林の場所がわからない。
「住所がわからない」ではない。住所(山林の場合は、不動産登記簿上の所在地番のこと)はもちろん把握している。不動産登記簿取得して、住所(所在地番)や、所有者、またはその土地の面積なんかを確認しているからだ。それなのに、その土地がどこにるのかわからない。
例えば、住宅地や商店などは、地図が整備されているので、「住所」がわかれば、すぐにその場所が判明する。試しに、Googleの検索窓に、自宅の住所を打ち込んで検索してみよう。通常、GoogleMAPで自宅が映し出されるはずだ。
ところが、これが山林となると、いくらGoogle先生に聞いても、その場所まで教えてくれない。
一応、我々も山林のプロなので、Google先生が答えてくれない山林の場所を探すノウハウはある。詳しくは別の機会に譲るが、結構な確率で山林の場所を特定することが出来る。(しかし、それが正しいかどうかはまた別の話。また国土調査が行われている地域ならば、簡単に場所が特定できるが、国土調査が行われていない地域だと、場所を特定するのに相当苦労する。)
今回、売買が決まった山林については、場所の特定が出来なかった。
場所が特定出来ないって事は、その山林に行くことも出来ないって事。おおよその場所がわかるだけで、もちろん土地の境界もわからない。
では、なぜそんな「場所もわからない」土地を買うのかと言うと・・・
ほとんど博打、投機的な感じ、それと少しの親切心か。
所有者もそんな土地は手放したい。手放したいけど、日本の民法上は土地を捨てること(所有権を放棄すること)は出来ないので、売買するなり、贈与するなり、代わりに引き受けてくれる人を探さないといけない。
通常、タダでもいらない土地だが、それが仮に格安でも「売れる」となれば、所有者は喜んで売ろうとするし、買主としては売主から感謝して貰える。
買主として、つまり会社としては、「そのうち場所がわかる時が来るかもしれない」、「場所がわからなくてもとりあえず買い進めれば、そのうち大きな一塊の土地になるかもしれない」なんて淡い期待を抱いている。
常識的に考えて、「場所がわからない」土地の売買が成立するはずなんかないのだけど、山林の売買に限って言えば、それなりに取引事例は多くある。普通の不動産業者じゃ考えられないだろうけど、我々のような林業会社で、積極的に山林を購入している事業体ならあり得る。
あり得ると言うか、私は相当な筆数の「場所がわからない」土地の取引を扱ってきた。
存在すらしない土地
場所がわからない土地ならまだしも、「存在すらしない土地」もある。
場所がわからない土地について、過去の記録をさかのぼって丁寧に調査していくと、ある矛盾点に気が付く時がある。ある年代の地図にはあるのに、ある時から地図上消えてしまう土地がある。ちょっと不動産をかじった事がある方なら気が付くかもしれないが、土地が「合筆」されていれば、地図上から消える。しかし、記録をたどっても合筆された形跡はない。
不動産の台帳(不動産登記簿)を管理している法務局や、固定資産税を徴収している役所等と相談して、その結果、「この土地は存在しない」って判断を下す場合がある。
登記簿があって、そこには所在地番、つまり住所や面積、現在の所有者名などが記録されているのに、最終的には「この土地は存在しない」となってしまう。
「購入した土地が実はこの世には存在していなかった」なんて、ある意味原野商法より悪質だが、これもまた山林に限って言えば、それなりにあり得る。
そんな「存在しない土地」を購入した会社として、売主にどんな法的手段をとっていくかと言えば、結論として「何もしない」。
こちらとしては、「そういうこともあるよね」くらいにしか思っていない。
そもそも、「場所がわからない」土地を購入するくらいなので、そのへんの覚悟はできている。覚悟はできているし、同時に、それを見越した金額でしか購入していないので、たまに存在しない土地を購入しても、「そういうこともあるよね」で済ませてしまう。
売買金額と山師
「山師」という言葉がある。WIKIやネット辞典なんかで調べると、そのまんま「山林」を飯のタネにしている人の意味、つまり「伐採などを請け負う者」って意味と、「投機的な事業で利益を得ようとしている者」や、「詐欺師、いかさま師」なんて意味もある。
もちろん会社として、詐欺など行わない。しかし、投機的な事業ってのは間違ってないかも。「場所がわからない」土地を購入するくらいなので、大損するか大儲けするかなんてほぼ博打。
ちなみに、山林に生育している樹木を一本一本手作業で計測して、その量などを計算してから金額をはじいて、購入することがある。むしろこっちの方が多い。投機的な利益を狙って、売主もいらないって言うからしかたなく、「場所がわからない」土地を購入しているってだけ。
山林の売買金額について、よく「相場はいくらですか?」って質問を受けるのだが、そもそも山林の相場なんかない。平米あたり〇〇円って決まっているわけではない。
山林の金額を決める要素は、アクセスの容易さや、傾斜のきつさといった事業(伐採)のしやすさと、土地上に生育している樹木の状態によって決まる。土地そのものの値段なんかはおまけみたいなもので、ほとんどタダ。
だから、平米あたり10円の山林もあれば、100円、200円の山林もある。結局は現地を確認してからでないと、金額は決められない。
補足だが、固定資産課税明細や登記簿に「山林」と記載されていても、現地が「山林」とは限らない。ほとんど宅地みたいな「山林」もあるので、そういった「山林」は金額が跳ね上がる。
樹木の価格
我々が山林を購入する場合、主に杉かそれ以外の雑木で区分する。雑木以外にも松なんかもあるのだが、あまり分量が少ないし、秋田県内ではそれほど見かけないので、それなりにまとまって生育していないと、考慮しない。
さて、その杉の価格なのだが、およそ50年前がピークで、それからずっと値下がりをしている。もちろん値段が高かった頃の話なんか知らないのだが、今では当時と比べて3分の1程度らしい。ウッドショックなんてニュースで騒がれているけど、まだそれほど山林の金額そのものには反映されていない。
今後、少しづつ値上がりするのかもしれないが、とにかくびっくりするくらい安い。50~60年生育した樹木を重機使って伐採して、製材工場で製材してって手間暇かけてるのに、そこで出来上がる製品が安すぎる。ホームセンターなんかで、材木の値段見てみれば、なんとなく想像出来ると思う。
山林を売りたいと思っている地主さんが、当時を知る人だと、現在の金額の安さにびっくりする。「そんなに安いと思わなかった」と売却を諦める人も多い。昔は、自分で山に入って手入れした人もいるから、なおさらその安さに納得できないのだろう。
それでも売りますか?
相場なんかないし、金額も昔と比べて安いし、なんも良い事ないような山林の売買だが、それでも買取の相談は多く、安くても手放したがってる人が多い。極端な話、「タダでも良いから引き取って貰えないか?」との相談もある。土地をタダで手放すって普通では考えられないが、悲しいかなその土地が地方の山林だとあり得る。
お金にもならない土地に毎年固定資産税払うくらいなら売ってすっきりしたいと思うのだろうが、先祖が育ててきた「山」って思うと、寂しい気もする。
最後に、秋田県内で山林を購入しようとしている会社も少ないと思うけど、もし売却を考えているなら数社に見積もり依頼するべき。門前払いされる事もあると思うけど、会社によってかなりの金額の開きが出ると思うので、あちこちに相談してみると良い。
そう言えば、個人でキャンプやりたいからって山林の購入が流行ったらしいが、どんな金額で購入したのかすごく気になる。タレントさんとか購入しているが、たぶんビックリするくらいの高額で売りつけられたんだろうな~と想像する。
あげるから貰ってって言う人もいれば、欲しければ(高く)売ってあげますと言う人もいる。ますます、「山師」と言われる世界だ。
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