なかなか身近にはいないのだが、父親が失踪してしまったとかって話は決してドラマの中だけの話ではないと思う。
最近だと、秋田県内のとある市町村で、行方不明の老人が山奥の林道で遺体で見つかったなんてニュースがやっていた。その方は、しばらく行方不明者として捜索されていたらしい。死因は自殺らしいが、うつ病を患っていたらしい。
失踪と聞くと、自ら出ていくようなイメージがあるのだが、事件に巻き込まれた場合もあるだろう。
そんな行方不明者が身内にいる場合、その方の財産等を処分出来なければ、残された家族には不都合だろう。もちろん財産云々の問題だけではなく、婚姻関係などの身分関係での問題もある。
この点、民法には行方不明者に関する規定が用意されているので、手続きを済ませば行方不明者の財産を相続する事ができる。
そもそも相続はいつ発生するのか?
相続と言えば、親が亡くなった時にその子供達に財産が受け継がれるイメージ。
法律にもそのものずばり「相続は、死亡によって開始する。」(民法882条)と書かれている。なので、「相続はいつ始まるのか?」との問いかけには、「人が死亡した時」となるわけだが、ここで言う「死亡」には、ごく一般的にイメージする「死亡」の他に、法的な「死亡」も含まれる。
自然死亡
我々が普通に考える「死」。ドラマなんかでお医者さんが、「〇時〇分ご臨終です・・・」みたいなシーンがあるが、要するに遺体を確認して、医師の診断をもって「死」と判断される。
認定死亡
死亡届は、医師の死亡診断書や死体検案書を添付して市町村に提出するのだが、例えば大規模な災害等に巻き込まれ、死亡は確実なのだが遺体が発見出来なかった場合、医師の死亡診断書や死体検案書が用意出来ない。
死亡したことが確実でも遺体が見つからない場合、取調官公署が死亡の認定を行い、取調べをした官公署が市町村長に死亡報告することで、戸籍に死亡の記載がされる。これらの取り扱いを認定死亡と言う。
ちなみに死亡の日時等は戸籍に記載されるが、認定死亡の場合、当然遺体すら発見出来ていないのだから死亡の日時がわからない。この場合、戸籍に記載された日時に死亡したと推定され、「推定」と記載される。
擬制死亡
「擬制」なんて言葉は普段使わない難しい言葉だと思うのだが、ネットで意味を検索するとおおむね「事実とは異なるが、同一のものとして取り扱う」みたいな意味が書かれている。この「擬制」と「死亡」の組み合わせなので、「本当の意味での死亡ではないが、死亡したものとして取り扱う」と言う意味になろう。
失踪宣告
一定期間行方不明、生死不明の場合に、死亡したとみなす制度のこと。連絡がつかないだけで、どこかで普通に暮らしているかもしれない。しかし、どこで何しているかわからない人を待つばかりでは、残された家族がその者の財産を処分出来なかったりと不都合が生じる。だから、本当の意味での死亡ではないが、死亡したことにして、相続等を開始してしまいましょうって制度。
この失踪宣告には二種類あって、相続開始の時期が異なる。
①普通失踪
生死不明の状態が7年間続くと、その期間満了時(最後の音信から7年後)に死亡したものとみなされ、相続が開始する。(民法31条)
②特別失踪(危難失踪)
危難(戦争、船舶の沈没、震災など)に遭遇してその生死が危難が去ったあと一年間生死不明の場合、危難が去ったあとに死亡したものとみなされる。一年後に相続発生するのではなく、また危難の発生した時でもなく、危難の去った時に相続が発生する。
失踪宣告と認定死亡
どちらも同じような制度に思える。失踪が生死不明・音信普通で、認定死亡が遺体が発見出来ない。
決定的な違いは、認定死亡が「遺体の発見」とうたっているところか。つまり、死亡している事が前提。失踪先行に関しては、例え沈没した船に乗船していたことが確実でも、もしかしたらどこか無人島に流れ着いて、そこで幸せに暮らしている可能性を排除していない。
生存の可能性があるから、失踪宣告では普通失踪7年、特別失踪1年の期間を設けているが、認定死亡については死亡していることが前提なので、取調べをした官公署が亡くなっていると判断すれば、期間等関係なく認定される。しかし、実務上は数か月の期間を要して慎重に進めるらしい(当然ですな)。
行方不明者の相続は?
以上のように、民法の考える死亡には自然死亡と擬制死亡がある。認定死亡は自然死亡の一様態で、失踪宣告が擬制死亡の制度になる。
身内に行方不明者がいる場合、失踪宣告の制度を利用すれば、その行方不明者は亡くなった者とみなされ、相続が発生する。いつ帰ってくるか分からない人をいつまでも待つ必要もなくなる。
でも、家族であるならどこかで生きている事を望みますよね・・・だから、もちろん行方不明になって7年たった、1年たったって自動的に、または強制的に失踪宣告されるわけではない。
「失踪宣告」なんて記事を書いていると、可能であれば、自分は布団の中で親族に見守られながら亡くなりたいと思う。
ちなみに、今回の記事で検討していたのは、行方不明者を亡くなった者として相続手続き始めましょうって話だが、逆の立場、例えば親が亡くなって相続が発生したが、その相続人たる子供の一人が行方不明って場合も当然ある。その場合はちょっと話が違ってくるので、次の記事に譲ります。
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