秋田駅東口から徒歩圏内の住宅地の一角。土地の広さを贅沢に利用した感じの平屋建て。駐車場は小さいが、その変わり綺麗に手入れされた庭がある。外壁も綺麗なとこから、まだ築年数も新しいか。
ここ数年、調査・検討していた山林の売買が決まり、その売主さん宅を伺った。広大な山林を購入する事に決まり、その契約締結のため。
書類一式を持ってお伺いすると、ご主人とその奥様が対応してくれた。実際は、ご主人と奥様と言うよりも、付き合いも長いので私の祖父と祖母みたいな感じの方達。
売買契約書と登記申請用の書類を用意して、簡単な説明して実印を押してもらうだけなので、通常は10分程度で終わる。最近は売買代金の支払いについても口座振り込みが多いのだが、仮に直接現金でのやり取りがあっても、せいぜい20分もあれば終わる。
今回の契約時も、売買契約書や登記用書類の説明して実印貰うまでに10分もかかっていない。それなのに、90分近くそのお宅でお話しをしていた。普段の生活の事など他愛ない話題ばかり。私が茨城県出身で結婚を機に秋田県に引っ越して来た事、茨城県出身なものだから秋田弁が分からない旨を話せば、大概のお客さんは喜んでくれる鉄板のネタだ。
私、ご主人、奥様と三人でお茶を飲みながら、そして高級そうな和菓子を頂きながらしばらくお話しをしていたのだが、後半ご主人が改まって、
「いや~本当にご難儀かけました。助かったよ。」
と言ってくれた。近年立木相場が安い事もあり、格安で土地と立木を買わせてもらった。もちろん会社として利益を追求して購入するので、こちらとしても利益が出るような金額しか設定していないし、そんな「助かったよ~」なんて言われるような事はしていないはずなのだが・・・
聞けば、子供達は独立して関東に住み、こちらに帰るつもりもない様子。このまま不動産(山林)なんか持っていても、子供に相続させると負の遺産になってしまうとの事。市町村役場の課税台帳上の地目が「山林」、「原野」ならばそれに課税される固定資産税も低額なので、そこまでの負担にはならないだろうが、低額とはいえ負担には違いないし、手放せるなら手放したいと思うのも頷ける。(ちなみに購入させてもらったこの方の山林は広大なため、毎年支払っている固定資産税も馬鹿にならない金額。)
さらに聞くと、この現在お住まいの立派な家を継ぐ人もいないとの事。子供は関東だし、ご本人の兄弟もそれぞれ独立して生計をたてている(家柄が良いからなのか、兄弟みんな良いところに嫁いだり、立派な持ち家があるので、駅前で資産価値が高いとは言え、あえてこの家を相続したいと思わないだろうと私は勝手に想像している)。
すごく不謹慎かもしれないが、避ける事が出来ない事なので言わせてもらうと、ご主人と奥様の二人暮らしでこんな立派な家にお住まいだが、いずれはどちらかが先に亡くなる。お二人とも年齢を感じさせないくらい肌の艶も良く、元気に歩ける方達なのだが、80歳も超えているし、どんどん身体も弱っていくと思う。
遺された一人は、この立派な自宅を一人で維持するのか。それとも売却して有料老人ホーム等に入居するのか。駅前なので資産価値も高いのだろうが、人口減少が止まらない秋田県内において、売ろうと思ってすぐに売れるとは限らない。子供でも帰って来てくれれば良いのだが、関東に家を持っていれば、わざわざ秋田県には帰らないのかと。
第三者の私がいちいち心配する事でもないし、相手からすれば「大きなお世話」と言われることかもしれないが、こうして不動産売買を通じて、その相手の生活やら置かれている状況に触れると、どこか寂しくも思う。「おやじから受け継いだ土地なんだけど~」と軽いのりでお話されるご主人だが、管理してくれる親族なり、特に子供なりがいれば手放したくなかったはず。
大事な「山林」を買わせてもらったもののけじめとして、しっかり管理していかないといけないと思う。と、同時にそばに自分の子供がいない事への寂しさを滲ませるご主人のお話しを聞いて、自分も両親を茨城県に置いて、秋田県にて生活している事に対してどこか後ろめたさを感じてしまった。
不動産売買って、普通の方は一生のうちにそう何度も経験するものでもないと思う。そんなレアな不動産売買を担当して、(自分自身の件も含めて)不動産売買から見えてくるその人の「人生」に触れられるのって凄い事だとつくずく思う案件だった。
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